医療・防災産業創生協議会(令和4年度)総会を開催
弊所では、公共政策志向のシンクタンクとして、今なすべきことを考え、またシンクタンクの業態転換も見据え、昨年4月、3か月間の準備期間ののち日本医師会、日本歯科医師会、土木学会等の協力のもとに医療・防災産業の創生に強い関心を持つ多彩な有志企業の参画を得て、「医療・防災産業創生協議会」(会長:寺島実郎)を設立しました。本協議会は、当面3年計画のもとに官学とも連携しながら民間主導で新しい産業創生に向けて積極的な活動を推進中です。
去る4月27日、本格的な活動開始後(1年間)の経過を踏まえ都内でハイブリッド形式の総会を開催し、協議会の事務局を務める弊所担当から、①令和3年度活動報告、②令和4年度事業計画(案)を説明するとともに、令和4年度からの新会員のうち、丸和運輸機関(災害発生時のサプライチェーンを維持し物流による社会のレジリエンス向上に貢献する先進的なネットワーク型大手BCP物流支援企業。民民間連携とともに官民連携面では10都道府県を含む31の地方自治体と災害時支援協定を締結済)よりのプレゼンテーションが行われました。参加者から、多くの意見や示唆等が出され、協議会の2年目以降の活動に向けてとても有益な総会であったと考えています(総会時の説明等資料(抜粋版)は、協議会ホームページ: https://www.mdpc.ne.jp/ 参照)。
本協議会の基本理念(ビジョン)の再確認
本協議会の創設は、①2020年の新型コロナウイルス感染拡大時に海外(特に中国)に大きく依存したサプライチェーン(生産・供給体制)が効率的に機能せず必要とされた医療資機材等が不足し、迅速かつ十分な医療提供体制(サービス)が進まなかったこと、②民間企業をはじめとして、自社開発・生産等に係る部分最適は得意としても多様なグローバル競争下での全体最適が不得意な体質等もあり、わが国はバブル崩壊後30年に及び成長が鈍化し(一人当たり名目GDPは世界第28位の水準(2021年IMF統計))、社会的にも急速な少子高齢化などが進み、全体として世の中に閉塞感が高まっている、との時代認識が契機となっています(「医療・防災産業の創生に向けた提言(中間とりまとめ)」(2021年6月)、同ホームページ: https://www.mdpc.ne.jp/ 参照)。
今こそ、私たちは災害(新型コロナウイルス感染症等のパンデミックを含む)にも強く、人々が安全・安心、そして幸福に暮らせる社会の実現に向けて、民間主導でそれに適う新しい医療・防災産業の創生と社会のあり方の変革に資する取組みが不可欠であり、そのためにも「プロジェクト・ベース」の本協議会の活動(貢献)が重要と考えています。本年4月時点で、これら産業創生プロジェクトの実現に必要な一定のメンバー(一業種一企業を原則)にご参画頂けたと思っています。
1年目の提言(中間とりまとめ)で構想した短期、中期、長期の行動計画のうち、最重要な短期(3年をメドにした)先進事業の社会実装(プロジェクト・エンジニアリング)において、弊所(協議会事務局)には、具体的に取組む社会実装の加速化が重要なミッションであり、参画メンバー企業等(約20社・団体)のニーズ、得意とする先端技術や事業力を結集し、業種横断的な連携に弾みがつく事務局運営(プラットフォーマーの役割)が期待されるものと認識しています。関係者一同が参画企業メンバーをはじめ今後新たに協力・連携する各関係者と協働して、地域や産業創生、さらに次世代にも資する有用なプロジェクトの実装に関与できるチャンスを積極的に楽しむ気概がポイントと考えています。
提言の社会実装(プロジェクト化)
提言(中間とりまとめ)の社会実装(短期)は、以下の3つのプロジェクトを重点に加速化を推進する方針です。加えて、新しい産業創生に資する市場醸成も並行して取組むことが必要と認識しています(下記スライド参照)。
実装化プロジェクトの1つ目(提言1:主にB2G、B2Cを見据えて)は、「地域振興・防災力向上」(地域創生と広域防災に資する「防災道の駅」機能を重視した取組(シンボリック・プロジェクト))です。
本協議会では、昨年秋以降、東北(福島)復興等に取組む観点から、国土交通省の「防災道の駅」制度に注目しています。本制度は、「道の駅」第3ステージの取組の一環として、広域的な防災拠点に位置づけられている「道の駅」を「防災道の駅」として選定し、防災拠点としての役割を果たすための、ハード・ソフト両面からの重点的な支援を行うこととされおり、令和3年6月、道の駅「猪苗代(福島県)」をはじめ全国で39箇所が初めて選定されました。交付金など重点的な支援は、令和4年度から5年間が予定されています。
こうした流れを受けて、地元自治体(猪苗代町、福島県)と国(東北地方整備局郡山国道事務所)は関係団体との協力のもと、道の駅「猪苗代」を軸とした、防災拠点や交通拠点、地域活性化などの地域創生に向けた取組みを推進しています。本年3月、弊協議会(事務局)は、地元の取組活動との連携が認められ、関係者との協議を経て今月より定期的な意見交換の場を設け、相互の目標等の共有化を丁寧に進める予定です。
本協議会では、地域のポテンシャルを含め有望な実装フィールドが得られ、今後、地元協議会が目指す姿(広域的な防災拠点化、観光・地域振興活性化等)が進展し、持続的な発展(地域・まちづくり)の実現に積極的に協力・支援することが、シンボリック・プロジェクトの有用性を内外に示す好事例(プロトタイプの確立)になると受け止めています。
具体的には、本協議会参画メンバーが有する先端技術や多様なノーハウ等に基づく事業力を結集した高機能・可動式コンテナ(多様なモジュールとデュアルユースが特長)を軸に、「広域防災拠点」として、有事(災害時等)には、避難所の高度化の観点から、各地の避難所への備蓄物資の供給と医療・炊き出し・水回り等の支援を中心に実施する想定です。
平時には、「地域力創出拠点」として、診療所・キッチン・イベント・防災教育や訓練・再生可能エネルギー施設等として活用し、医療・農業・観光・教育・再生可能エネルギーの振興等を通じて、地域創生を促進する目論見です。特に、地域産業創生の観点からは平時の取組みがより重要であり、地元企業と本協議会参画メンバー企業との有機的な連携(マッチング)を重視し、福島県内地域金融機関(東邦銀行)の積極的な関与がポイントと認識しています(今後、猪苗代(東北)モデルの好事例(地域産業創生に資する多様なモジュールや運用システム他)を全国に展開する上でも各地の地域金融機関との関係構築がポイントであり、本取組みは金融庁の地域産業活性化支援スキームとも親和性が高い)。
医療・防災産業の創生に向け、実装フィールド(猪苗代・会津広域地域)での「地域振興・防災力向上」(シンボリック・プロジェクト)の実現に資する本協議会の取組体制(全体設計)は、下記スライドをご参照ください。
実装化プロジェクトの2つ目(提言2:主にB2B、B2Cを見据えて)は、「DXプロジェクト」として、①技術情報のデータベース化とマッチング、②地域振興、防災力向上に資する取組を効率的・効果的に運用支援するシステム開発です。
①技術情報のデータベース化とマッチング
医療・防災産業創生に係るコンテンツの集約・高度化に向けて、参画メンバー企業の製品・サービスのうち、「地域振興・防災力向上」プロジェクトに関係する技術情報を体系的に収集・把握するとともに、本協議会設立後にアプローチ等のあった多数の企業とその製品・サービスに関する情報についても網羅的に整理中です。
今後、これらの情報を統合・蓄積し、医療・防災産業の創生に資する「技術情報」データベースとして整備するとともに、高機能・可動式コンテナ(多様なモジュール)の効率的な運用に資する民民間のマッチングに活用する計画です。
②地域振興、防災力向上に資する取組を効率的・効果的に運用支援するシステム開発
全国各地の防災拠点等に分散配置されたコンテナ/トレーラーをネットワークで結び、位置、種別、稼働状況等を正確に把握することにより、有事(災害時)の機動的な集中運用を実現する計画です。
また、平時には道の駅をはじめロードサイド店舗、ショッピングモール等の利用者のアプリダウンロードを促進し、地域内外の顧客基盤の構築を通じて観光活性化や販路拡大(市場創出)に応用するとともに、災害時には情報提供ツール(防災DX)として活用する予定です。
実装化プロジェクトの3つ目(提言5:主にB2B、B2Cを見据えて)は、「地域防災力強化プロジェクト」として、地方型(岐阜モデル)、大都市型(東京モデル)の官民連携メカニズムの構築に向けたヒトや企業の動きや協力に係る取組みです。ここでは、国土交通省の業務委託で進めている「道路防災対策に関する官民連携手法調査」において検討している「東京・下町モデル」についてその概要を紹介します。
首都直下地震等の大規模災害が発生した際の車両等「モノ」の除去に関しては、災害対策基本法改正や首都直下地震道路啓開計画(八方向作戦)などにより、制度面や計画面での対策が進められています。他方、約520万人と想定されている帰宅困難者等が幹線道路に殺到・滞留した場合など「ヒト」への対応は未着手の状況です。
本調査では、防災対策の一環として、沿道民間企業と連携した帰宅困難者の一時休憩スペースの確保など、帰宅困難者の安全確保と復旧活動の円滑化に資する具体的な官民連携策について検討し、実効性の高い官民連携メカニズムの提案・構築を行う予定です。
具体的には、建物倒壊危険度、火災危険度、災害時活動困難度から「地震の際の総合危険度」を把握し、ヒトの移動量・利用経路、事業所の分布状況の把握を踏まえ、都内対象エリアを選定し、現地踏査をはじめ沿道の企業・店舗等に詳細の聞き取り調査を行っているところです(下記スライド参照)。
東京・下町モデルでは、台東区内の国道6号線(浅草橋~浅草エリア・約3キロ)を対象に官民連携メカニズムの構築に向けて、①行政との連携状況・運用実態、②平常時からの防災の取組み、③帰宅困難者支援において提供可能なリソース、④帰宅困難者支援の実施上の課題、⑤帰宅困難者支援に取組む上でのインセンティブ、などを聞き取っています。本協議会の参画メンバー企業をはじめ多業種・業態の関係者から率直な意見等が寄せられており、単に行政との帰宅困難者支援協定や防災協定の締結では、災害時の避難や救護面で実効性が疑問視される内容も含まれています。本調査の特徴は、官民連携において、点ではなく沿道を介した対策が線上に行われることがポイントであり、有用な知見等が今後の防災対策に活かされるものと考えています。
来年(2023年)は、1923(大正12)年関東大震災から100年の年であり、この間、私たちの生活は携帯電話、コンビニエンスストアの利活用など大きく様変わりし、身近な社会インフラとしても定着しています。関東大震災は震源地が相模湾中心に広がったにもかかわらず、東京の人口密集地での火災による死者が多数を数え、自然災害史上最悪の被害となっています。特に、東京本所(陸軍被服廠跡地)の避難所では、避難民とそれぞれが運び込んだ家財道具ですし詰め状況が火災旋風によって4万人余りの人々が亡くなったとのことです。
大事なことは、確度の高い情報、家庭や企業備蓄などであり、自身でできることを日常的に取組む姿勢が必要と考えています。ある民間の調査によると、「災害大国」日本であるにもかかわらず、家庭で災害への備え(家庭備蓄等)をしている人は約4割とのことです。これを約8割へ引き上げることが迎えたい未来(目標)との考えのようです。これが実現するとしたら、全国で約2000万世帯から約4000万世帯へ、首都圏(1都3県)は、600万世帯から1200万世帯へと増大し、ローリング(1年毎)を含めると家庭備蓄に伴う防災関連市場は、巨大な規模になると想定されます。
中間とりまとめで構想した長期(10年メド)の社会のあり方の変革(ソーシャル・デザイン)の前倒しに積極的に取組むことも日本社会の持続可能性を高めるだけでなく、医療・防災産業の創生にとってとても重要なことと考えています。
この他、「防災工業団地」プロジェクト、病院船(多目的船)プロジェクトの推進もウクライナ情勢の動向等によっては必要不可欠な取組みと考えられますが、当面はシンボリック・プロジェクトの実装化に専心することがミッションと認識しています。
結び
本協議会の短期(3年メド)の実装プロジェクト(福島・猪苗代モデル他)の1つの有益な出口(国際市場等の醸成)としては、2025年の大阪・関西万博に照準を当てています。本協議会参画メンバーが有する先端技術や多様なノーハウ等を結集した高機能・可動式コンテナ(多様なモジュールの開発・運用等)をはじめとしたシンボリック・プロジェクト(実装化)は、万博が提唱する基本計画5つの特徴のうち、特に「快適、安全・安心、持続可能性に取り組む万博」と親和性が高いと考えています。加えて、万博会場は大阪湾の人工島で2025年4月から半年間にわたる開催期間であり、災害等への備えの観点からも、本協議会が開発・運用する高機能・可動式コンテナ(システム)は有用な役割を果たすものと認識しています。
国際博覧会が災害や事故もなく成功裏に開催されることが最重要であり、本協議会が何らかの貢献ができればと考えています。そのためにも、参画メンバー企業をはじめ今後新たに関係する方々とも密接に連携しながら精力的に協議会活動を推進することが重要との認識です。引き続き多くの皆様に本協議会活動へのご支援等を賜りたくお願い申し上げる次第です。