医療崩壊防止と安全JAPANプロジェクト

緊急ファクト調査のポイント(フェーズⅠ)

わが国においても新型コロナウイルスの感染拡大が本格化して以降、「医療体制の崩壊」が国家的危機として広く叫ばれております。弊所では、創業50年を迎える公共政策志向のシンクタンクとして、今なすべきことを考え、本年4月、日本医師会総合政策研究機構、(一社)ふくしま総合災害対応訓練機構の協力を得て、わが国の医療産業に係る緊急ファクト調査(フェーズⅠ)を実施し、「産業力で医療崩壊を防止する緊急提言―第2波、ポスト・コロナを見据えて」を取りまとめ、公表しました。

本緊急提言は、弊所会長の寺島実郎から出演番組にて幅広い層の視聴者に解説を行うとともに、日本経済新聞記事にも掲載されるなど、大きな注目を集めました。

なお、本提言及び寺島の解説動画については、以下のURLをご参照ください。

また、緊急提言についての下記日経記事もご参照ください。

日経掲載紙(2020.6.1)

本提言は、ファクト調査結果を踏まえ「早急に実施すべきこと」と「民間のアクション提言」の大きく2つの内容(骨子)で構成されています。このうち、前者(防護具セットの確保、防護服等の生産ライン及びワクチン・抗ウイルス薬開発に資する積極投資)については、5月末に国費投入という対応が決定されました。

しかしながら、コロナ第2波、3波やポスト・コロナを見据えた国家的かつ包括的対策は十分とは言えず、「民間主体の対策を主導するタスクフォース(プラットフォーム)が必要である」という問題意識の下、残る「民間のアクション提言」の具体化に向けて、5月以降会長寺島を中心に弊所として、医療及び産業界による「医商連携」に資するプラットフォームの組成プロジェクト(フェーズⅡ)を進めているところです。

「安全JAPAN」プロジェクト(フェーズⅡ)

具体的には、COVID-19の第2波を超えて、との視界から産業力を結集する社会実装プロジェクトの実行を目指し、夏から秋にかけて日本医師会、日本歯科医師会をはじめ医療機関関係者、関連する企業などの協力のもとに医療崩壊防止と新しい医療・防災産業の創生に資する「安全JAPAN」プロジェクトを実施中です。

本プロジェクトは、「ウィズ・コロナ」と「ポスト・コロナ」の大きく2つの時間軸で進めています。その概要は次のとおりです。

(1)ウィズ・コロナ(2020年秋~22年春)

フェーズⅠの基本的考え方に基づく産業面からのアプローチを踏まえ、医療資機材の「国産化の推進」、関連する「新産業の創生」を具体化するため、健康・生活・経済活動の維持に必要な優先対応として「検査」機能を重視し、利便性の高いコンテナの提供(製造・運用)からスタートするプロセスを踏むこととしました。

コンテナは、使用用途の多様性、高い可動性、海外展開・輸出の容易さなどに優れており、運用次第では市場規模も大きくなることが期待されます。

「国産化の推進」「新産業の創生」に向けたプロセス

(ステップ1)

利便性に優れたコンテナの展開イメージは、ステップ1として東京に隣接する「埼玉モデル」の本格実施から始めています。その手順は、類似事例の調査、コンテナの仕様検討、導入先医療機関の決定などです。この手順を進める上で、日本医師会の協力が大きな推進力になっています。日本医師会のシンクタンクである日本医師会総合政策研究機構の客員研究員による仕様検討や導入先医療機関の決定などで助言等を頂くとともに、実際のオペレーションに不可欠な運用マニュアルの作成などでも重要な貢献を担ってもらっています。

この結果、埼玉モデルの第1号として、今般(11月30日)さいたま岩槻病院(さいたま市)に「発熱検査センター」の機能を有する1ユニット(検体採取、患者待機の2台のコンテナ)を設置し、医療従事者の協力を得て12月1日より運用が開始されました。続いて、第2号が並木病院(所沢市)に設置され、12月11日より運用が開始される予定です。2箇所の医療機関は医療法人社団医凰会が運営しており、同会の林理事長のご理解も重要な推進力になっています。

12月を迎え、新型コロナとインフルエンザの同時流行が懸念されており、埼玉県のみならず全国の医療機関にとって院内感染やクラスターが発生することは医療従事者や新型コロナウイルス感染症以外の患者の健康と命に係わるとともに、病院経営にとっても院内感染(院内クラスター)発生は、死活的な問題を引き起こすことになりかねません。

埼玉モデルの実施事例はスタートしたばかりですが、同時流行の懸念を少しでも払拭するにはできるだけ早く、多くの発熱センターが稼働することが必要と考えています。高機能コンテナの製造に関わる専門技術者(日本エンコン株式会社)の各位には、短期間のうちに計画通りの納期・設置にご協力頂いたことに改めて感謝する次第です。特に、類似製品(コンテナ仕様)と比べて経済性・環境性に鑑み、中古品を再利用するエコに長けた製造工程には、経営センスと技術力の両立が強みになっていると評価しています。耐用年数においても大きな遜色はなく、今後このノーハウを十分に生かせる計画的な需給に資する連携がより求められると考えています。

コンテナ設置の様子

なお、11月30日の高機能コンテナ(発熱検査センタ-)の設営現場には多くのメディアによる取材が行われましたが、その一部は下記URLをご参照ください。

抗原検査ができる発熱検査センター設置(テレ玉) – Yahoo!ニュース

移動OK発熱検査センター : ニュース : 埼玉 : 地域 : ニュース : 読売新聞オンライン

(ステップ2)

埼玉県内2箇所の医療機関での運用に加え、他の医療機関でも「発熱検査センター」の稼働が進むよう関係方面と協議中です。当面は、同時流行が想定される来春が目途になりますが、こうした医療機関での高機能コンテナの運用ノーハウを、ステップ2としてコロナと熱中症が想定される来夏の東京五輪・パラリンピックにおけるホストタウンや事前キャンプ地、競技会場での外国選手団、地域住民、ボランティア、観客などのPCR検査体制の強化・運用に活かすことを計画中です。

埼玉県では、19の自治体がホストタウンに名乗りを挙げており、ほとんどのホストタウンでは事前キャンプも予定されています。しかしながら、現下の新型コロナの感染拡大(第3波)も重なり、ホストタウンとしての受け入れ準備は十分でなく、国の支援も明確に示されていない状況から、多くの自治体で不安が表明される現状です。

埼玉県内オリパラ地図

オリパラにおけるホストタウンへの支援については、コロナ禍においてPCR検査とともに、全世界に向けた広報施策も重要と位置付けられています。この分野で多くの実績を持つ株式会社YUSU PROJECT(井上康治社長)との連携を進めており、同社が開発中のPCR検査を巡回して実施できる改造型トラックによる運用も検討中です。オリパラに向けては、同社をはじめ主要メディア等の参加による「2020 HOST TOWN GLOBAL PROJECT」準備室を11月に立ち上げ、1月から本格的な活動を行う予定です。

政府は、コロナに打ち勝ち、東京オリパラを成功させるとの意気込みですが、ホストタウンや事前キャンプ地で、もし感染者が出るような事態になれば、オリパラの成功どころか開催自体も難しくなることが想定されます。このため、競技開催とともにホストタウンや事前キャンプ地の対策についても用意周到な検討と実行が必要と思っています。

(2)ポスト・コロナ(2022年春以降)

東京五輪・パラリンピックが終了した時点で、新型コロナの感染状況も見極めつつ、高機能コンテナの運用と利活用を判断する予定です。医療機関では、今年だけでなく来年の同時流行への備えから、2022年春まで発熱検査センターの運用を希望する意見も出されています。

こうした要望も踏まえながら、本来の眼目である新しい医療・防災産業の創生に向けた利活用を検討し実行することが重要と考えています。

〇道の駅への設置・稼働

弊所の会長寺島は、東日本大震災時に主に東北各地の道の駅が発揮した救援・救護に際しての活動拠点としての機能を高く評価しています。道の駅が有する特性(駐車場、電源、水回り、情報機材など)から、毎年頻発する災害対応等への備えとして道の駅の積極的な利活用を提唱しております。

国土交通省では、道の駅の重要な機能に鑑み、「防災道の駅」の認定作業も進められており、寺島が構想する高機能コンテナを改造した「検査」「備蓄」「避難」機能を備えたSCU(スマート・コンテナ・ユニット)との親和性も高く、ポスト・コロナに向けて今後SCUの導入可能性を含め関係方面との調整・協議が必要と考えています。

〇産業創生

新しい医療・防災産業の創生には一定の市場規模が必要であり、例えば全国の道の駅(1,180箇所)のうち、防災道の駅として認定される箇所を中心にSCUの設置が検討され、稼働するようになれば、一定の市場規模が見込まれるところです。

緊急ファクト調査で明らかになったことの1つは、海外主要国では、「戦略的緊急備蓄」という考え方に基づき、有事に迅速に対応できる医療資機材等の備蓄を制度化していることです。例えば、アメリカでは、全土を対象に連邦政府の決定後12時間以内に供給できるよう、予め医療必需品等が梱包されたコンテナに備蓄されています。各国とも政府と民間が連携する運営が主流であり、迅速かつ効率的な対応と社会的コストの削減が実現されています。

現下のコロナ禍の教訓を将来に生かすことが重要であり、諸外国の制度等の研究・分析も見据えた対策が求められます。

〇研究会の設立

緊急ファクト調査、安全JAPANプロジェクトを通して、弊所が主導する取組に関心を示す企業が会長寺島や弊所に集まりつつあります。医療・防災産業を創生するためには、「核(震源)」が必要と考えており、弊所が「核」を担う機運も醸成されつつあると感じています。

21世紀のわが国の「安全・安心・幸福」に寄与する新しい産業創生と社会実装に向けた研究・実践活動を目的に、医療・防災分野に関心を持つ企業・組織を会員とする緩やかな組織体として、弊所内に「医療・防災産業創生研究会(仮称)」を設置し、1月から活動を開始する予定です。

結び

医療崩壊防止と安全JAPANプロジェクトの観点から、公共政策志向のシンクタンクとして「ウィズ・コロナ」、「ポスト・コロナ」で取組むところの概要(ポイント)を共有した次第です。

目下の最優先すべきことは、今冬のコロナとインフルの同時流行への対策であり、高機能コンテナを活用した「発熱検査センター」の的確な運用です。「埼玉モデル」のシンボルである2箇所の医療機関(2ユニット)での運用成果が、ポスト・コロナへの発火点になると認識しています。

弊所では、現在2ユニットの開発・製造費の充当に向け、クラウドファンディングによる資金調達をお願い中です(https://readyfor.jp/projects/anzenjapanをご参照ください)。現下のコロナ禍との闘いの中で、自分達の「安心・安全・幸福」に対し、各自が「自分事」として考え、自分の命と健康を守るため行動していく好機と捉え、また仕組みは自分達でつくれるとの考え方から、このような調達手法を採った次第です。

弊所では、20歳、30歳代の若い所員が中心に本手法を発案・運営しており、アドバイス役のクラウドファンディング会社の担当者も同世代であり、将来を担う世代が真剣に取組む姿勢に頼もしく清涼感を感じています。皆様におかれましても調達手法にご理解頂き、多くのご支援を賜りますようお願い申し上げます。

最後に、コロナ禍のなかくれぐれも健康にご留意の上ご活躍頂ければ幸いです。