埼玉県・静岡県、宮崎日日新聞・TBS・北海道テレビの取組と報道
昨年8月、弊所の会長寺島実郎監修、日本総合研究所編、日本ユニシス総合技術研究所システム分析協力『全47都道府県幸福度ランキング(2016年版)』が東洋経済新報社より刊行されました。この本は、『日本でいちばんいい県―都道府県幸福度ランキング(2012年版)』、『全47都道府県幸福度ランキング(2014年版)』に続く3冊目の出版になります。
出版後、昨年末にかけて弊所主催記者発表会、寺島の報道ライブ番組(BS11:寺島実郎の未来先見塾)、出版元の東洋経済新報社の東洋経済オンライン等による情報発信によって、これまで2冊の出版時以上に、地方自治体、経済界、新聞・テレビ等のメディアを含む各方面から多くの問合せと取材の申し込みが寄せられています。このうち、経済界からのアプローチとして日本青年会議所(JCI)幹部メンバーとの意見交換の概要を本コーナー「幸福度研究への手応え」(10月掲載)の中で取り上げました。その後も文藝春秋Webサイトを含め多種多様な媒体で県民幸福度ランキングの結果等が発信・紹介されています。
こうした経緯を踏まえ、今年になって1か月の間に埼玉県、静岡県、宮崎日日新聞、TBSテレビ、北海道テレビから依頼等を受け、意見交換・講演・取材・テレビ出演等を行うことになりました。以下に弊所の県民幸福度研究に対する自治体・メディアの最新の反応等、その要点をリポートします。
埼玉県の取組と提案
埼玉県の上田知事には、2014年版の幸福度ランキングの発表直後(2014年1月)に弊所が主催する「日総研フォーラム―地域の幸福を考える」というパネルディスカッションに登壇いただき、主に埼玉県のランキング結果等について知事の見解を述べていただいた経緯があり、県民の幸福度に対して関心が高いものと理解しています。
今般県庁では、2016年版の発刊に際して、庁内全部局に意見照会し、ランキング全体と各指標について、意見の有無・修正点等を取りまとめられ、県庁関係者からその概要及び詳細内容を丁寧に説明いただくとともに、意見交換の機会を得ました。これまでも出版ごとに各県の関係者から幸福度指標の考え方や設定方法を含め、主に関心のある個々の意見照会や提案をいただくケースはありましたが、全指標を掘り下げた上で「全体的意見」及び「個別指標への意見」として網羅的な整理のもとに、新しいデータの取得可能性も含む具体的で建設的な提案等は今回の埼玉県が初めてであり、今後の弊所における県民幸福度研究のさらなる改善や進化の面で参考にしたいと考えています。
静岡県の取組
去る1月27日、静岡県地方議会議長連絡協議会政策研修会に招かれ、弊所の研究員と共に、主に2016年版の書籍をもとに「県民幸福度研究―幸福度ランキングの見方・考え方」と題して講演を行いました。県内各市町村の議長・副議長が集まっておられ、客観的データによるランキング結果、これに基づく他県との比較などに関心を持たれ、今後の県の施策の反映にあたって有意義な指標づくりを進めていきたいとの感想をいただきました。
また、2012年、14年、16年の3時点でのランキング結果から、各県・分野別に幸福度指標に係る時系列の比較・分析が可能であり、例として健康分野における静岡県と長野県の「現行指標」と「先行指標」の順位や特徴を比較・説明したところ、特に関心を持たれたようです。県民幸福度研究の積み重ねがランキング結果の説明・活用の面でも厚みが出てきており、継続した作品づくりの重要性を再認識しているところです。
静岡県政策企画部では、県民幸福度の最大化につながる施策の立案や施策の成果を正確に測る指標試案の策定に向けて、平成28年度県民幸福度調査を実施中であり、主に県内4,000サンプルを取得し、主観的な観点と客観的な観点の双方から県民幸福度を総合的に分析する取組も進めています。
宮崎日日新聞のインタビュー掲載
2017年1月14日付けで、『みやざき「幸福論」』の特集記事が掲載されています。「識者で評価分かれる」との見出しで、私と内田由紀子氏(京都大学こころの未来研究センター准教授)、吉田雅彦氏(宮崎大学地域資源創成学部長)の3名のインタビュー記事とともに、弊所の47都道府県幸福度ランキング結果(2016年版)の宮崎県に関する指標全てが掲載・紹介され、総合順位が34位、1人当たり県民所得が低いなど経済基盤の脆弱さが最大の課題であり、一方で、待機児童率や合計特殊出生率が全国高水準という強みもあるとの解説です。
3名のインタビュー内容に関する取材記者の感想として、松岡は「暮らしを豊かにするための道具」と期待する一方、内田准教授は「統一指標では測れない」と懐疑的、吉田学部長は「指標には移住者目線も必要」と考えるとの指摘です。
加えて、松岡は「日本の閉塞感を希望に変える素材を示したかった」とした上で「全国での位置を客観的に把握し、地域活性化につなげてほしい」と願う。内田准教授は「地域ごとに幸福感は違うため、一本化された指標で測ろうとすると幸せが見えづらくなる」と指摘。全国の多くの自治体が幸福度を測る指標を作成していることにも触れ、「住民の幸福に直結する指標にすること」を求める。吉田学部長は「県外から観光客や移住者として来てくれる人が多いかどうか」も指標に反映させることを提唱。「輝いている地域には外から来てくれる人が多い」などと持論を述べた、との解説で、2面に各インタビュー内容が紹介されています。
インタビュー内容について、立場や取り方とも関係し、また取材記者の関心事項や取り扱いが異なり、違いを出すことに苦心が見られるが、3名ともアプローチの違いは異なるが全体として地域における幸福度評価への高まりには共通性もあり、このような対比を紹介することの重要性に関して貴重かつ納得のいく企画と考えています。
TBS・北海道テレビの報道
2017年2月2日、及び2月7日にTBSテレビと北海道テレビの取材(インタビュー)を受けました。前者は、TBS番組「白熱ライブ ビビット」で、後者は北海道内ローカル放送「イチオシ!ニュース」で2月9日に放送予定です。両テレビ局とも、弊所の2016年版幸福度ランキングについて、函館市が中核市42市のうち42位(最下位)であり、一方で、ブランド総合研究所(東京都港区)では、魅力度で全国トップであり、函館市では、「魅力度トップ」と「幸福度が最下位」という正反対の結果が相次いで公表され、市民の間で話題になっているとのことです。このため、結果の中身についてインタビューでその違いを知りたいとの番組企画です。
後者の魅力度調査は、昨年夏に主要な全国1,000市区町村を対象にインテ―ネット上で「観光に行きたいか」、「特産品を買いたいか」など地域の魅力度に関する77項目を質問し、3万人から回答を得て点数化、函館市がトップとなったようです。一方で、弊所のランキングは、39項目の各種統計データで分析し、幸福度を算出しています。
両テレビ局とも、「なぜ函館が最下位になったのか」、「上位の都市との違いは何か」、「函館のデータで特筆すべき点はあるか」、「このランキング結果をどのように捉えればいいか」などについてインタビューが行われました。
私からは、最下位の要因の1つとして、今回分析を行っている42の中核市の中で最も人口が少ない市(約27万人)であり、市の「基本指標」及び「健康」分野、「仕事」分野において、それぞれ42位、42位、41位という結果です。他都市と比べて、「基本指標」では、「人口増加率(41位)」、「合計特殊出生率(41位)」、「1人あたり市民所得(40位)」と低く、また「健康」分野では、「平均寿命(41位)」、「仕事」分野では、「若者完全失業率(40位)」、「正規雇用者比率(41位)」などが低い傾向です。上位の都市は、比較的「健康」分野と「仕事」分野において上位に位置している傾向です。
函館市の「教育」分野は20位であり、「教員一人あたり児童生徒数(4位)」、「不登校児童生徒率(12位)」など、上位に位置する指標もあり、総合ランキングを意識することも理解できるが、むしろ各自治体が有する強みと抱えている課題を客観的に認識した上で、それぞれの指標において、他都市と比較し、政策や取組等を参考にするなど、函館市自体の指標の数値を良くしていく一助として幸福度指標を活用してほしいと述べました。
結び
対照的な調査結果は函館市議会でも取り上げられ、市長は、街や市民生活に課題があることを認めつつ、「まちの魅力だけでなく、市民の幸福度に直結する人に関する部分も魅力を上げていきたい」と答弁したようです。
函館市では、早速「健康」分野の改善施策として、市民が一丸となって健康体操を取り入れたり、「健康診査受診率」の向上にむけて市が積極的な広報活動を行ったりする取組もスタートし、こうした取組に対して市民の共感や参画が進展すれば、幸福度のランキング順位も改善し、市民の幸福感も向上することが期待できます。
弊所の幸福度研究の作品が全国で活用され、市民の主体的な参画等を通じて市民(個々人)の幸福感の向上や地方創生に資することが最大の眼目と考えています。