ジェロントロジーの体系的研究1年目を終えて

ジェロントロジー研究の1年目(フェーズ1の成果)

弊所会長寺島実郎著『ジェロントロジー宣言―「知の再武装」で100歳人生を生き抜く』がNHK出版より刊行され、先月で丁度1年が経過しました。

著者は、日本が目指す社会のあり方や、人間の生き方を再構築するために不可欠なアプローチとして、「ジェロントロジー」を「高齢化社会工学」と捉えています。特に、都市郊外型の高齢者(象徴として、国道16号線周辺の居住者(65歳以上240万人))を、社会システムの中にもう一度位置づけ直し、社会に参画し貢献する主体として活躍できるプラットフォームを設計・構築することが必要との考えです。

本書は、異次元の高齢化社会を体系的に捉え、新たな社会システムの再設計に挑戦する端緒とし、将来の日本を広く深く構想する参考書として、同じような問題意識を共有する多方面の読者に広く読まれているようです。

著者は、「あとがき」の中で、本書で展開した問題意識に基づいて、本格的かつ体系的なジェロントロジー研究を進めるために「ジェロントロジー研究協議会」を立ち上げ、様々な分野の専門知を体系化し、高齢化社会における「参画のプラットフォーム」を創造する試みに挑戦してみたい。このため、弊所を研究協議会の事務局として、著者自身が協議会の研究主査となって活動を取りまとめることにしたい、と述べています。

この宣言どおり、著者を座長とした研究協議会の立ち上げを踏まえ、2年の研究計画の基に1年目のジェロントロジーの体系的研究(フェーズ1)を多くのステークホルダーの皆様の力強い参画を得て、有意義に推進し研究成果を積み上げることができたと考えています。その主なものは、2年計画後の「フォーメーション(実行組織)」、「コンテンツ(人材育成プログラム)」の2つの主要な出口戦略の骨格が明確になってきたことです。以下にその概要を中心に紹介します。

体系的研究基盤が確立共通のゴールに向けて

●学際的で新しい研究分野への挑戦

ジェロントロジーは多岐に渡る学問体系であり、それだけに様々な分野の専門知を必要とし、研究協議会の下に設置しているジェロントロジー研究会のメンバーは社会学、経済学、工学、人口学、宗教・心理学の学識者のほか、医療・健康、美容、金融、農業、観光分野などの専門家で構成され、これまでに5回の研究会の開催を重ね、多面的なアプローチから議論、研究を深めています。

ジェロントロジー研究会(第5回、7/18開催)の様子

学際かつ新しい研究分野に係る研究会での議論を踏まえつつ、研究会メンバーと連携して体系的な視界から具体的な社会的事業や人材育成プログラムを起草し、パイロットプラン(実証事業)を行うクラスター別分科会(宗教・こころ、医療・健康、美容、金融、農業、観光の6分野)に参画される主要ステークホルダーの専門家等からなる構成メンバー(約25名)にも、重要な役割を担って頂いています。すでに6分野で20回を数える分科会の開催に加え、関係する多くの学者・専門家・実務家への詳細なヒアリング調査を通じて貴重な情報や知見・ネットワーク等を蓄積しており、今後出口戦略の社会実装化に資する有用な成果に繋がるものと考えています。

ジェロントロジーを高齢化社会工学(知の再武装、社会システムの再構築、プラットフォームづくり)と捉えている寺島座長は、研究会や研究協議会(親委員会)をはじめ、あらゆる機会に研究主査としてその真意を繰り返し丁寧に解説することで、多くの参画メンバーに一定の問題意識の共有化が見られることが、1年目の重要な成果とも考えています。すなわち、世代、職種、分野横断的な参画メンバーが共通のゴールに向けて連携・協力できる体系的研究基盤が整備・確立されることが、2年目(フェーズ2)の大きな推進力になると考えるからです。

●コアメンバーによる合宿―1年目の総括と2年目の展開に向けて

1年目の研究活動の総括と集約化、2年目の出口戦略(社会実装・事業育成ステージ)を見通した体系かつ具体的な実行計画を検討・共有するため、今月上旬、事務局を構成する日本ユニシスの研修施設(伊東市内)を利用し集中討議(合宿)を行いました。多忙なコアメンバー(クラスター別分科会の主要メンバー他)には、平日の1日半缶詰め状態の環境で熱心に意見等を開陳頂いたことに事務局関係者として大変有難く思っています。また、すばらしい研修施設を提供頂いた日本ユニシス関係者に対して改めて感謝を申し上げる次第です。

合宿の主なアジェンダは、次のとおりです。

〇1日目(8月5日)

出口戦略A(フォーメーション)

(1)セッション1

  • 2020年10月以降の事業計画スキーム・推進体制の検討

(2)セッション2

  • 事業計画スキーム・推進体制の検討(続き)
  • パブリックオピニオン事業に関する検討
  • キャッチフレーズに関する検討

〇2日目(8月6日)

(3)早朝セッション

  • キャッチフレーズに関する検討(続き)
出口戦略B(コンテンツ)

 (4)セッション3

  • 人材育成プログラムの検討(8月27日~29日のプレ研修実施等)

合宿のアジェンダは、1年目の研究活動の体系的な積み上げを踏まえ、主に2020年10月以降に予定する実行協議会移行後のフォーメーション(実行組織)、主要事業であるコンテンツ(人材育成プログラム)を出口戦略の視界から討議を行ったものです。合宿の成果は現在事務局を中心に整理・集約中ですが、今月下旬の事務局を構成する多摩大学(多摩キャンパス)でのプレ研修(下記「プレ研修実施のご案内」参照)、寺島座長との意見交換等を経て、第3回ジェロントロジー研究協議会(9月11日開催)に提示しご議論等頂く予定です。

プレ研修実施のご案内(ジェロントロジー人材育成プログラム)

合宿の時点で集中討議を行った「フォーメーション」と「人材育成プログラム」の主なポイント(骨格)は次のとおりです。

●フォーメーション(実行組織)

2年の研究計画後には、研究から実行フェーズに移行することを予定しています。現状では、2020年秋(10月)に研究協議会を実行協議会に改組するとともに、実行活動を行いやすい法人格を取得し、当面5年刻みで高齢者および高齢者予備世代の組織化(所謂日本版「AARP(全米退職者協会)」)を目指した社会的事業(運動)を行い、特に地方自治体と連携した地方創生を梃に新たな社会システムの再構築を実現する目論見です。

主な機能として、都市郊外の元気シニアを主要ターゲットにした人材育成、資格認定、人材バンク登録・マッチング(人材派遣等)を中心事業と考えています。また、機能を確実かつ価値を担保するためには、自前の目利き(供給および需要・市場側のニーズ、適切な資金確保と社会的投資、国際的なネットワークと調査分析評価をカバーするシンクタンク機能など)とともに、政策提言(制度設計等)機能を合わせて具備することが必要と考えています。加えて、高齢者および高齢者予備世代等を全国規模で幅広く組織化するためにも情報発信・訴求力が重要であり、パブリックオピニオン(先進的なコミュニケーション機能)も併設する予定です。

本組織は、個人会員、個人モニター会員、法人会員、法人戦略パートナー会員のほか、特別会員制(主に連携する地方自治体、大学、メディアなど)を設け、産学官民参画・協働型のダイナミックでよりオープンな運営を行う計画です。すでに、今秋からのパイロットプランの実施に向けて、埼玉県内の複数の自治体と「ジェロントロジー研究のための実証事業に関する協定書」を締結し、具体の連携が進められています。今後も国道16号線周辺の自治体を中心にパイロットプランの実効性を高める観点から、協定自治体をさらに拡充する方針です。

上記一連の事業や機能を円滑・適正に推進するため、内部・外部マネージメントの視点から、監事会、倫理委員会をはじめ資格認定機構、投資ファンド(投資委員会)などの組成も重要と認識しています。

●コンテンツ(人材育成プログラム)

1年目の研究活動で最も難しいテーマ(課題)がジェロントロジー学に基づく人材育成プログラムの開発と考えています。すでに米国では先行研究事例が豊富にあり、実際のプログラムは大学や関連団体で開発・運用されています。こうした米国版プログラムを十分に参照・理解した上で、日本版プログラムとして寺島座長が意図する6分野を考慮した人材育成プログラムの開発は、ジェロントロジー研究会の宮内座長代理を中心に直近3か月を要して体系・集中的に進められ、今回の合宿でその概要(骨格)が共有された次第です。

開発中のプログラムは、共通と分野別プログラムの大きく2段構成であり、全体で90時間(共通30時間、分野別60時間)の受講コースが検討されています。今秋11月からの受講コースの実施(10月募集予定)に向けて、今月下旬にプレ研修(20名参加予定、前掲案内参照)を実施し、主にプログラム供給側の品質管理(講師の考え方や説明の練習、素材の確認など)を行い、必要な修正に反映する予定です。

結び

上記のフォーメーションと人材育成プログラム、キャッチフレーズなどに対する合宿での討議内容の要点は、次回ジェロントロジー研究協議会(9月11日)で紹介する予定です。合宿参加者(15名)からは、寺島座長が主導するジェロントロジー(高齢化社会工学)の体系的研究に直接参画できることの面白さが改めて指摘されましたが、一方で、来年の出口戦略を見据えると、今後3か月毎に適切な時間管理が求められ、最初の節目が年末との意見も出されました。その後、来年3月、6月の節目毎に成果(アウトプット)が見える化できるよう、有用な人材育成プログラムの開発・適用をはじめコアメンバー間でもこれまで以上に力を結集したい、との言葉で有意義な合宿が終了しました。

本コーナーでは、今後も節目毎に、公開ができる限り、多くの皆様に研究状況等を積極的に共有していきたいと考えています。