幸福度研究の進化―データ分析と向社会へのアクション

幸福度ランキング第4弾の発刊

今月下旬、幸福度研究の第4弾として『全47都道府県幸福度ランキング(2018年版)』が東洋経済新報社から発刊されます。すでにシリーズとして3冊(2012、14、16年版)を出版していますが、本研究は、幸福とは主観的なものであり、一概に推し量れるものではない中で、自分達が置かれている状況を客観的に捉えられるよう、統計データを基にできる限り幸福という価値を相関的に、そして対比分析にみる共通の物差しを提供することに主眼をおき、様々な人々が同じ認識に立って議論できるよう進めています。

2012年版の発刊後、地方自治体などから様々な反響があり、“地域における幸福を考えるきっかけをつくる”という当初の目的に向かい動きが起こりつつあると確信するとともに、2014年版、2016年版と発刊を重ねていく過程で、本書と幸福度研究への注目度が着実に高まり、地方自治体にとどまらず、地方議会・メディア(新聞・TV・雑誌等)・各種団体(経済連合会、労働組合、青年会議所等)・大学など多方面から、内容に関する問い合わせ・意見、取材、講演依頼等が数多く寄せられています。こうした反響や注目度から、作品づくり(出版)の積み重ねに対する手応えを感じつつ、3冊までの研究・出版はいわゆる“幸福を考え、理解・共感のヒントを提供する”ためのデータや知見等を含む基盤づくりであったと捉えており、陸上の三段跳び競技に例えると“ホップ”の段階で、今般の第4弾から次の“ステップ”、すなわち“人々に具体的なアクションを示唆するきっかけをつくる”という段階に入っていると認識しています。

それは、20年余に及ぶ経済成長の鈍化、2011年の東日本大震災、異次元の高齢化と人口減少、激動する国際情勢への対応や国内政治の停滞など課題が山積する中で、日本社会のあるべき姿や進むべき方向(向社会)とは、どのような価値や目標を持つことが尊く、幸福につながると考えるべきか。100年人生が唱えられる昨今、老いも若きも自分たちが置かれている状況を客観的に捉え、国の創生は地域(地方)の創生からを基本コンセプトに自分流のアクションをとってもらえるよう、本研究でもさらなる進化が必要と考えています。

今月下旬の発刊に先立ち、進化の一端(ポイント)を紹介します。

幸福度ランキング2018年版における進化

本書では、これまでの3冊の成果に加え、主に3つの点について進化した内容構成になっています。第1は、より多面的に地域の幸福を測る観点から5つの指標を追加しています。第2は、経年変化への注目を含めデータ分析の観点を重視しています。第3は、100年人生を見据え、日本独自のライフスタイルとそれにあった幸福をつくる試みとして“幸福度ランキング2.5”を分析し、読者の理解と興味を惹くため都道府県のランキング結果よりも先に掲載しています。以下に第1から第3の概要を紹介します。

(1)より多面的に地域の幸福を測る5つの指標を追加

幸福度ランキング2012年版では55指標、2014年版では60指標、2016年版では65指標から都道府県の総合ランキングを分析しています。2018年版では、社会の重要な変化、2016年版の発刊後に行った様々な議論を踏まえつつ、新たに「訪日外国人客消費単価」、「市民農園面積」、「子どものチャレンジ率」、「コンビニエンスストア数」、「勤労者ボランティア活動者比率」の5指標を加えた全70指標で分析し、ランキングを行っています。

新たに追加した5つの指標に込めた思いは次のとおりです。

1点目の「訪日外国人客消費単価」は、監修者(寺島実郎)が序章で述べる「地域の幸福」を考える上での基本認識における“アジア・ダイナミズム”を見据え、やみくもに来訪者数を増やすだけでなく、観光の質的向上を志向していく上で重要な指標として選定しました。

2点目の「市民農園面積」は、“ジェロントロジー(高齢化社会工学)”で指摘した参画のプラットフォームづくりが重要であるという認識から選定しており、3点目の「子どものチャレンジ率」は、将来の地域を担う次世代が子どものうちにどれだけ挑戦する心が養われているか、その後の人生での“知の再武装”の必要性という観点から選定しました。

4点目の人口10万人あたりの「コンビニエンスストア数」は、コンビニエンスストアが地域に果たしている役割に注目し、ここに地域の日常を支える、ありとあらゆる機能が凝縮されているのが現状です。コンビニエンスストアそのものが“コンパクトシティ”とも言え、今後過疎化していく地域にとってコンパクトなネットワークが重要になっていくという視点から選定しました。

5点目の「勤労者ボランティア活動者比率」は、人口減少社会において個人が積極的に複数の社会的役割を担うことの重要性を踏まえて選定しました。

 (2)経年変化への注目を含めデータ分析の観点を重視

2018年版では、47都道府県すべてに基本指標および分野別指標、総合ランキング結果を4時点(2012、14、16、18年版)で経年変化が一目でわかるよう、「経年グラフ」を掲載しています。また、各県の順位の変動を含め考察・分析においては4時点の推移を時系列で行うなど、他県との横断的な比較と併せて、データの見方において厚みのある解析が可能になりつつあるとともに、ビッグデータの蓄積面でも本研究の重要な資産が積み上がりつつあると考えています。

資料1は、4時点での順位変動が大きい注目指標の一覧です。抽出した基準は、4版すべてにわたって上昇している、または下降している指標であること、上昇指標は20位以上上昇している指標、下降指標は15位以上下降している指標を示しています。

基本指標では、「財政健全度」について福島県が37位から12位へ25位上昇しています。東日本大震災による財政支援等の影響と考えられます。「選挙投票率(国政選挙)」について沖縄県が46位から22位へ24位上昇しています。駐留沖縄米軍基地をはじめとする昨今の与野党間の激しい競争の結果とも考えられます。

健康分野では、「高齢者ボランティア活動者比率」について三重県が35位から10位へ25位上昇しています。この間、三重県では本指標に係る積極的な施策が進められたようです。「健康診査受診率」について山梨県が40位から5位へ35位上昇しています。この間、山梨県でも県民の健康改善に係る積極的な施策が進められています。「スポーツの活動時間」について東京都が27位から7位へ20位上昇しています。2020年のオリ・パラを控え、本指標に係る取組が進展している証左と考えられます。

以下、文化、仕事、生活、教育の各分野でも、埼玉県、京都府、徳島県、宮城県、愛媛県でそれぞれ順位が大きく上昇した指標が見られます。一方、神奈川県、長崎県では下降した指標が見られますが、47都道府県での横断的な比較の結果、他県に比べて相対的に低かったことを示しています。

このような経年・横断的なデータ分析から、行政関係者にとっては、自県および他県との政策・施策の事後チェックや比較が可能となる上、縦割りになりがちな行政施策の総合化が促進され、効率的な行政運営やサービスへの職員の意識が高まることが期待できます。従って、行政自らも継続的に客観的なデータの収集・構築を行う取組が必要であり、データを蓄積・分析する過程で、政策の総合化(部局を跨いだ連携)が県民の幸福に繋がるとの認識が重要と考えています。そして、県民や議会に対しては、客観的なデータ分析を用いた論理的でわかり易い説明により、政策・施策への共感・参画の実現(県民の幸福度向上)に結びつけることが理想と言えます。

(3)“幸福度ランキング2.5”を分析

2018年版では、2016年版における特定の社会課題やテーマについて幸福度の指標から分析し考察する“幸福度ランキング2.0”を、さらに進化させる観点から、100年人生を見据え、日本独自のライフスタイルとそれにあった幸福をつくる試みとして“幸福度ランキング2.5”を分析しています。その内容は、ランキングの先にあるものとして、幸福を実現するための「アクション」を、“県民目線”と“行政目線”から、前者はライフステージごとに、後者は広域連携という視点から、平易な言葉使いとともに、関連する多様なデータも駆使した斬新な考察を行っています。

前者の考察の視点は、あらゆる年代で「幸せになる人」に起こしてほしいアクションとは、との視点から、ライフステージごとに県民(みなさん一人ひとり)へのメッセージについて、

  • これからの時代、あなたの人生を幸せにするために、大事なこと、やるべきこと、備えるべきことは何か。
  • そのために、あなたの県がどう考えて、どう取り組んでいるのか。

の2つをメッセージの軸として、考察を行っています。

ライフステージは、青少年、子育て世代、中堅社会人、シルバー(現役)、シルバー(リタイヤ)の5つの分類です(資料2参照)。

後者の考察の視点は、隣接県が一体となって実現する“健康長寿社会”について広域連携がなぜ必要なのかなど、県民の幸せのために政策を考える行政スタッフ向けに分析を行っています。具体的には、100年人生を意識しつつ、平均寿命と健康寿命の組み合わせから見えてくる地域の特徴、ブロックごとの共通課題、健康長寿がもたらす様々な幸福を、前者のライフステージごとのアクションも考慮した観点から、分析した内容になっています。

結び

上記の主に3つの進化に加え、2018年版では47都道府県レーザーチャート順位一覧、都道府県(70指標)、政令指定都市(47指標)、中核市(39指標)に関する各指標の出典・算出方法を都道府県、基礎自治体ごとにそれぞれ整理・編集、3冊の出版への主な質問と対応内容の整理など書籍全体を再構成し、わかり易さ、使い易さにも配慮しています。詳細は、発刊後にご購入・ご一読頂きたくお願い申し上げる次第です。作品の成果を多くの人々に広報・周知するための企画や販促活動も計画中です。

弊所の県民幸福度研究は、日本ユニシス総合技術研究所のシステム分析協力など多大なるご尽力を得て作品を4冊発刊するまでになりました。前述のとおり、“ステップ”の段階と認識していますが、これが“ジャンプ”の段階まで進化し応用されることが公益的なシンクタンクとしての使命と考えており、関係者一同さらなる研鑽を積む方針です。

(本コーナー「所長の放言高論」は、次回から「理事長の放言高論」に移行予定です)