統計情報から社会構造を考える

このブログでは、業務に関わる中で気になったことや発見したことなどを研究員の視点で皆様にご紹介したいと思います。私の場合、官公庁等で実施している様々な調査結果を見る機会も多いため、それらの統計情報をもとにした話題を記載したいと思います。

第1回目は、2015年国勢調査の結果から、人口の動向についてみてみます。

■わが国の人口の動向

すでにわが国の人口はピークを迎え、減少局面に転じていることは周知のとおりです。国勢調査が開始された1920年(大正9年)以降の約100年間において、わが国の人口は1985年頃まで右肩上がりに増加していました(大戦期を除く)が、1990年以降はほぼ横ばいで推移し、2015年には減少に転じています。この間の代表的な世代である団塊世代は、その後のわが国経済社会の著しい復興を牽引した世代ですが、今やその方々も70歳を迎えようとしています。

出典:「国勢調査」(総務省統計局)

将来の人口については、国立社会保障・人口問題研究所による推計値が出されています。この推計値によれば、2050年の総人口は約9,700万人、2060年には約8,700万人まで減少することが見込まれています。(この推計値は、移民政策や外国人労働者政策などの外的要因が大きく変化しない限り、大きく外れることはないと考えられます。)

この図を見ていると、生物学的・人口学的にみたときに、どこまでわが国の日本の人口は減少するのか、人口の高齢化とともに情報化が大きく進展するなかで国力を維持するために保持すべき人口規模はどの程度か、あるいは世界一の高齢社会であるわが国が、今後高齢化が進むアジア各国や世界の国々に対してどのような役割が果たせるのかなど、さまざまな疑問が湧いてきます。こういった大きなテーマについて、今後研究を重ねてみたいと思っています。


出典:「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」

(国立社会保障・人口問題研究所)

■地域別にみた人口増減

全国ベースでみれば、人口が減少しているといってもそれほどでもないという印象を持たれた方もいらっしゃると思います。しかし、これを都道府県別にみてみると、かなり地域差があることがわかります。

2010年から2015年にかけて、全国の人口総数は約100万人(0.8%)減少しています。都道府県別にみると、人口が増加しているのは首都圏の東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県と愛知県、滋賀県、福岡県、沖縄県に限られ、他の道府県では人口が減少しています。特に、東北地方や山陰地方、四国・九州の多くの県では2.5%以上の減少がみられ、大都市圏への人口集中(地域間格差)が浮き彫りとなっています。

人口が増加している首都圏(1都3県)を例に市区町村レベルで人口の増減をみたものが下図です。これをみると、東京都臨海部(港区、江東区、大田区等)を中心に居住人口が2~3万人増加しており、埼玉県や千葉県、神奈川県などの都心へのアクセスがよいエリア(都心から概ね30~40km圏内)で人口が増加していることがわかります。これは、湾岸部や都心部を中心とした大型マンション開発等による影響のほか、自治体等の子育てサービスの充実度等もがこうした都心回帰現象に寄与していると考えられます。

出典:「国勢調査」(総務省統計局)より作成

一方で、東京23区の中でも唯一足立区では人口が1万人以上減少しています。これについてはさまざまな理由が考えられます。人口移動に関する調査結果の公表後に再度分析する必要がありますが、簡易的に年齢5歳階級コーホート別の人口増減数※をみたものが下図です。

※2010年と2015年の国勢調査による5歳階級コーホート(同一の年齢階層集団)の差分。例えば2015年時点で20~24歳階層の集団は、2010年では15~19歳階層に属しているため、この両者の差分をとったもの。

人口が増加している港区、江東区、大田区のうち、大田区では20歳代のみが増加していますが、港区や江東区ではともに20~30歳代が増加しており、大田区の増加構造とは異なっていることがうかがえます。

一方で、人口が減少している足立区では、20歳代は増加していますが、それ以外の年代はすべて減少しており、特に75歳以上の高齢者層の減少幅が大きいことがわかります。足立区は23区内でも比較的高齢化率が高いこともあり、それが人口減少のひとつの要因になっていると考えられます。

今後も足立区では人口減少が続くと考えられますが、区内各地でまちづくりプロジェクトが進行しており、特に北千住駅周辺には5つの大学が集まり学生の街として注目されています。また、鉄道網の整備(日暮里・舎人ライナー、つくばエクスプレス)によって都心へのアクセスもよいことや、下町の雰囲気や温もりを感じる住民や街並みなど、地域の持つ魅力は決して少なくありません。近い将来には、20歳代のみならず30~40歳代のファミリー層にとっても魅力ある地域となる可能性は十分にあるといえるでしょう。

 出典:「国勢調査」(総務省統計局)より作成

■選ばれる地域

国勢調査の結果からは、国全体としてみれば人口が減少していますが、そういった中でも人口が増加している地域があることがわかります。今回は東京都内の一部の自治体をご紹介しましたが、2010年から2015年の5年間に人口が1000人以上増加した自治体は全国で168ほどありました。それらの自治体は大都市近郊や地方中心都市が多く、人口の集中化が進んでいる実態が見えてきます。いずれにせよ、それらの自治体には人をひきつけるだけの魅力があるのだと思います。逆にいえば、人口規模を維持するためには、人々に選ばれるための魅力(暮らしやすさ、働きやすさ、子育てしやすさ、介護しやすさ、等々)を打ち出すことが必要な要件といえるでしょう。

現在は人口が増加している東京都でも、オリンピックが開催される2020年をピークに人口減少期に突入し、人口増加が見込める地域はごくわずかになると思われます。また、10年後には大都市周辺地域での75歳以上の後期高齢者層の大幅増加も見込まれています。このような人口構造や社会構造の変化の中で人々に求められる地域の魅力とは何か、次回以降に考えてみたいと思います。