こんにちは、調査研究本部 生活創造研究部の田中です。
先日、2024年1月30日に浜松市天竜区光明地区の光明ふれあいセンターにて「福祉防災の関係づくり」ワークショップを開催しました。
現在、日本総合研究所では、厚生労働省老人保健健康増進等事業「高齢者施設における非常災害時における地域ネットワーク構築の促進及び訓練の実効性の確保に関する研究事業」を実施しています。本調査研究は、近年の激甚・頻発化する自然災害に対して、高齢者施設がいかに行政や社会福祉協議会、自治会などの地域の関係者と連携体制(=地域ネットワーク)を構築し、災害が発生した際に業務継続を可能とし、地域支援を行っていくか、そのための有効な対策を分析・考察し、今後の地域防災のあり方を検討していく事業です。
調査研究では、アンケート調査やヒアリング調査を通じて、全国の高齢者施設のうち、防災を切り口とした地域ネットワークを構築している事例を収集・分析しています。加えて、高齢者施設がいかに地域ネットワークを構築していくか、実際にモデル地区を選定した上で、その地域で地域ネットワーク構築のきっかけづくりを行う、いわゆる地域ネットワーク構築の「実践」という位置づけで実施したのが今回のワークショップです。
まず、今回の調査研究を行うに至った背景について少し触れておきます。昨今、自然災害が激甚・頻発化していることには先ほど触れましたが、新型コロナウィルス感染症の流行により、高齢者施設でもクラスターが発生するなど、危機管理上の対策が喫緊に求められるようになりました。そのような情勢を受け、厚生労働省の令和3年度介護報酬改定において、業務継続に向けた取組の強化を行うべく、「全ての介護サービス事業者を対象に、業務継続に向けた計画等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等を義務づける」※1と明記されました。令和5年度末までに、いわゆるBCP(業務継続計画)を策定し、それに基づいてBCM(業務継続マネジメント)を行うよう義務づけられたというわけです。加えて、災害への地域と連携した対応の強化についても言及されており、訓練の実施にあたって、地域住民の参加が得られるよう連携に努めなければならないとされています。※2
しかし、災害への地域と連携した対応の強化とはいうものの、具体的にどのように進めていけばよいか、そのきっかけづくりを行うことが難しいという高齢者施設が多いのが現状です。そこで、今回の調査研究において、地域ネットワーク構築がうまく行っているところは、なぜうまくいっているのか、どのようにしてうまく進めているのかを調査するとともに、我々日本総研が実際に1つの地域に入り込んで、災害対策を切り口として地域ネットワーク構築のきっかけづくりを実践し、現場のリアルを体感することで、今後も伴走させていただきながら地域の防災力向上を図っていくための第一歩としました。
前置きがかなり長くなってしまいましたが、今回ワークショップの対象とした地域は、静岡県浜松市天竜区光明地区です。浜松市と弊所は、「地方創生に関する包括連携協定」を締結し、弊所で実施する事業の研究フィールドとしてご協力いただいています※3。そこで、今回は、浜松市天竜区光明地区の光明小学校区を「実践」のフィールドとし、そこで活動されている関係者の皆様にご協力いただきました。
出所)浜松市HP, https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/ward/tenryu/index.html
天竜区光明地区は、天竜区の中でも南端に位置し、天竜川水系の二俣川沿いにある地区となります。ちなみに、光明小学校は浜松発の輸送機器メーカーであるホンダの創業者・本田宗一郎の出身校でもあります。私の祖父も定年までホンダに勤めていたこともあり、個人的にも少し縁を感じる地域です。
さて、今回は光明小学校区の自治会、民生委員、高齢者施設、障害者施設、社会福祉協議会、地域包括支援センターの関係者計20名にお集まりいただき、災害時のリアルな経験を記録した災害エスノグラフィーを使い、災害イメージを涵養するワークショップを実施しました。
ワークショップのプラグラムは主に「①講師による講話」、「②災害イメージづくり」、「③ワールドカフェ(グループワーク)」で構成されています。講師をお願いしたのは、本調査研究において検討委員会座長をお務めいただいている、跡見学園女子大学・鍵屋一先生です。
「①講師による講話」では、直近の能登半島地震について、鍵屋先生ご自身による現地視察での様子や地域における防災の重要性についてお話しいただきました。
「②災害のイメージづくり」では、「災害エスノグラフィー」(過去の被災経験に基づいた体験の記録)を用い、参加者各自が災害エスノグラフィーを読み込み、課題や知恵、教訓をポストイットに書き込みました。
「③ワールドカフェ」は3ラウンド制で行いました。まず4人1グループの班に分かれたうえで、ラウンド1は「②災害のイメージづくり」で書き込んだアイデアを模造紙に貼り付け、アイデアを班のメンバーと共有しました。ラウンド2では、最もおしゃべりだった人を班内で一斉に指差し、一番多かった人がカフェマスターとしてテーブルに残り、その他の人は違う班に散らばり、ラウンド1で話し合ったアイデアを他の班と共有し、アイデアを深めました。ラウンド3は元いたテーブルに戻り、ラウンド2で得られた発見や気づきを共有し、さらに話し合いを深めました。
1~3ラウンドを行い、話し合いによって深まったアイデア3つ以上をA4用紙に書き込みました。各班から出たアイデアをいくつか紹介します。
- 要支援者の周知(助け合いの心を持つためにコミュニケーションをとる、あいさつ、声かけ)
- 自治会内での情報の整理と共有化
- 自治会と高齢者施設で顔合わせ会を4~5月にできると防災訓練がより充実する関係をつくっておける
- 定期的に顔合わせの機会を作る
- 情報弱者でもわかりやすい伝達の方法が必要
最後に各班から生まれたアイデアを参加者全員で見て回り、良いと思ったものにシールを貼っていきました。ワークショップで生まれたアイデアについて鍵屋先生やオブザーバーから講評をいただき、ワークショップを終了しました。
今回ご参加いただいた皆様からは、「きっかけづくりのいい機会になった」、「またぜひ参加したい」とのお声をいただきました。
今回は“きっかけづくり”にフォーカスしたワークショップを開催しましたが、今後はさらに具体的なアクションにつなげ、地域防災力向上に向けた取組に発展させていきたいと考えています。
ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
※1 厚生労働省,「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」, https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000753776.pdf .
※2 同上1
※3 日本総合研究所,「地域創生に関する包括連携協定の締結について」, https://www.jri.or.jp/archives/6366/ .